動脈硬化診断支援システムの開発

概要

 近年,食生活の変化などにより不安定狭心症や急性心筋梗塞などの急性冠症候群が増加している.急性冠症候群は冠動脈に蓄積した,コレステロールを大量に含んだ脂質の固まりであるプラークが原因である.この成長したプラークが破裂し,それに伴い形成される血栓が血流を減少または途絶することで,急性冠症候群は引き起こされる.したがって,急性冠症候群を予防するために冠動脈内のプラークを見つける必要がある.
 冠動脈内の情報を得るための方法として血管内超音波法(Intra Vascular Ultra Sound: IVUS)がある.IVUS法は先端に超音波探触子(プローブ)が取りつけられたカテーテルを血管内に挿入し,プローブで送受信される超音波によって,血管の断面画像(IVUS画像)を得る手法である.得られたIVUS画像からは血液の流れ道である内腔の径や面積,プラークの性状などの評価が可能である.これらの情報は経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention: PCI)治療の方針の決定や,術後の経過を観察するために有効であり,現在IVUSは日本で広く用いられている.
 本研究では,急性冠症候群を防ぐために,医師の診断のサポートになる動脈硬化診断支援システムの開発を行っている.具体的には,プラーク境界線抽出,プラーク組織性状判別,GUIの開発に取り組んでいる.

プラーク境界線抽出

 プラークの組織性状判別,面積,体積等を定量的に評価,診断する際,注目するプラークの境界を正確に抽出する必要がある.しかしながら,IVUSにより得られた画像では,血管の組織や,赤血球などが超音波を散乱させることでスペックルノイズが発生する.このスペックルノイズの重畳により,IVUS画像は不明瞭になり,プラークの境界の抽出は困難を要する.現在,IVUS画像中のプラーク境界線は熟練した医師が手動トレースによって抽出している.また,臨床の場では1患者に対するIVUS画像は膨大なものであり,医師に膨大な負担がかかっている.
 このような医師の負担を軽減するため,IVUS画像中のプラークの境界線を自動で正確に抽出する手法が望まれている.本研究室では,医師によって与えられた少数のプラーク境界上の点(シード点)を用いて,正確かつリアルタイムでプラーク境界を抽出する手法を提案している.また,このシード点を自動配置することで,プラーク境界線を完全自動抽出する手法も提案している.

組織性状判別

 急性冠症候群の原因となるプラークは,その組織の構造により2つに大別される.一つは安定プラークであり,もう一つは不安定プラークである.線維性組織が厚く脂質性組織が小さいプラークを安定プラーク,線維性組織が薄く脂質性組織が大きなものを不安定プラークと呼ぶ.安定プラークは,破綻の危険性が少ないため急な処置を要しないが,不安定プラークは,突然破綻する危険性があるので,直ちに処置が求められる.したがって,急性冠症候群を未然に防ぐにはプラークを構成する組織の性状を判別し,不安定プラークを見つけなければならない.
 臨床において,医師が組織性状を診断するIVUS画像は白黒で低解像度であり,また,スペックルノイズの重畳のため,そこから確実な組織の性状を判別するのは困難である.本研究室では,IVUS画像を構築する前の血管壁からの反射信号を用いて組織の情報を解析することにより,プラークの組織性状を精度よく判別する手法を提案している.

GUIの開発

本研究室では上記の研究に加え,これらの手法を搭載したグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)の開発にも取り組んでいる.これらの手法を容易に使用できる,医師との親和性の高いGUIは,医師の負担を軽減し,より作業を効率よく行うことができる.

関連プロジェクト

  • 日本学術振興会科学研究費 基盤研究(B)
    平成23年度〜平成25年度「ソフトコンピューティングによるリアルタイム高性能動脈硬化診断システムの実用化」
  • 山口大学戦略的研究推進プログラム
    平成22年度「ブレインコンピューティングに立脚した動脈硬化診断支援システムの実用化研究と臨床応用」
  • 独立行政法人科学技術振興機構, 地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発推進プログラム
    平成21年度「シーズ発掘試験」「動脈硬化診断支援システムの実用化」
  • やまぐち・うべ・メディカル・イノベーション・ クラスター
    平成16年度〜平成20年度 「近赤外線,超音波等を利用する高性能動脈硬化診断システムの開発」